【歳川隆雄 永田町・霞が関インサイド】アフガン脱出、悲劇の中で見つけた秘話 機内出産、乳児治療の「いい話」と岡田大使館員らの“退避劇” (1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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【歳川隆雄 永田町・霞が関インサイド】アフガン脱出、悲劇の中で見つけた秘話 機内出産、乳児治療の「いい話」と岡田大使館員らの“退避劇” (1/2ページ)

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アフガニスタンからの「脱出劇」が続くなかで、恐れていたことが発生した。

8月26日、首都カブール空港付近でイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)傘下の「ホラサン州」(IS-K)による自爆テロが起き、米軍兵士13人を含むアフガン人など180人超が殺害されたのだ。

このため、カブールに残る国際協力機構(JICA)現地職員や、日本大使館現地採用スタッフとその家族で国外脱出(亡命)希望者を、航空自衛隊のC130輸送機など3機で隣国パキスタンに退避させる作戦は頓挫した。

当初、空自が想定したのは、アフガン人協力者とその家族約500人を移送する計画だった。しかし、27日までに日本人現地通信員1人と、アフガン人14人の計15人を移送できただけである。

一方、カブール陥落(15日)後、在アフガン日本大使館員は、本省の指示により中東ドバイ(アラブ首長国連邦)経由でトルコのイスタンブールに向かうため、数台の車に分乗してカブール空港に急いでいた。

幹線道路は逃げ出す群衆と車で大渋滞し、立ち往生した。館員一行は車を乗り捨てて大型トランクを担ぎ、徒歩で空港へ行くハメとなった。まさに壮絶な状況だったという。

自衛隊、カブール空港外活動に制約 退避作戦、1人のみ(朝日新聞デジタル)

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アフガン退避で日本と韓国の差! 外交官は逃げて民間人と現地職員を置き去りの日本、外交官がアフガンに戻り390人を退避させた韓国(2021年8月30日)|BIGLOBEニュース

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日本政府の棄民姿勢はコロナ対策だけではなかったらしい。タリバンが権力を掌握したアフガニスタンで、日本の自衛隊がJICA職員など民間の在留邦人や大使館の現地スタッフの退避作戦を展開したが、結局、日本人1人しか退避させられなかった。

アフガニスタン人については14人をパキスタンに運んだものの、これはJICAや日本大使館の現地職員ではなく、第三国から移送の依頼を受けた人たち。日本に関係するアフガニスタン人はそのまま置き去り状態になっている。

政府は26、27日の2日間で約500人全員を移送できるとしていたが、蓋を開けてみたら、このていたらく。

政府や防衛省は「26日に空港近くで自爆テロが発生し、タリバンの検問が厳しくなったため、多くの人が空港にたどりつけなかった」などと説明しているが、これは言い訳にすらなっていない。

それは、「韓国」と比べれば、明らかだ。韓国もアフガニスタンに多くの関係者がいたため、韓国軍が退避作戦を展開したが、大使館の現地職員や家族あわせて390人を韓国に移送。26、27日にはすでに、全員が仁川に到着し、手厚く保護されている。

なのに、日本が退避させたのはたったひとりの日本人(共同通信のスタッフ)。いったいこの差はなんなのか。ネトウヨや政権応援団は「日本は憲法9条のせいで動けなかった」などデマをわめいているが、憲法は関係がない。自衛隊が在外邦人を保護し、移送することは、自衛隊法84条の4で認められているし、空港までの保護もやりようはあった。

日本の退避作戦がこんなお粗末な結果に終わったのは、オペーレーションがなってなかったから、そして、政府に自国民や現地の人たちを本気で救う気がなかったからだ。

韓国の対応と比較をすれば、そのことがよくわかるはずだ。

●韓国は22日に軍が現地入り体制づくり、一方、日本の自衛隊は24日にようやく日本を出発

もっとも大きかったのは、初動の差だ。今回、韓国はかなり早い段階から退避を進めており、まず、17日の段階で、民間人も含めた在アフガニスタン韓国人を全員退避させていた。

そして、22日深夜には、韓国軍が現地に展開。同日、経由地のパキスタンの了解を取り付け、韓国大使館などに努めていたアフガニスタン人とその家族390人を移送するオペレーションを開始した。

すでに広く報じられているように、26日の爆破テロ以前から、カブール空港周辺は国外脱出のために多くの人が殺到するなど混乱状態が起きていて、空港周辺はタリバンの厳しい検問が敷かれていたため、自力で空港にたどり着くのが困難な状況にあった。

そこで、韓国は政府が6台のバスを手配。別の場所に集まった365人をバスに乗せて、空港に移送した。バスにはさらに、タリバンの厳しい検問を突破するために、米軍に同行してもらい、タリバンとの交渉を依頼していたという。

25日の時点で全員を空港に集め、C-130輸送機でパキスタンのイスラマバードに移送。26日に377人がKC-330輸送機で仁川に、残る13人も27 日に仁川に退避させている。

ところが、日本は日本人大使館員については17日に全員退避させたものの、現地スタッフについてはなかなか動こうとせず、自衛隊機が日本を出発したのは、24日だった。

韓国と日本でこんなに差がついたことを、一部のマスコミは「1日違いでたまたま移送できず」と、この差が偶然であるかのような報道をしていたが、初動の差は1日どころではない。自国民については1週間以上、現地アフガニスタン人スタッフについても、少なくとも3日は韓国より遅れを取っていた。

空港周辺でテロが起きる可能性は22日頃から米軍が呼びかけていたのに、日本はなかなか動こうとしなかったのである。

実際、旧タリバン政権崩壊後、政府特別代表として武装解除にあたった伊勢崎賢治氏も朝日新聞で「駐留米軍の撤退期限が今月末に迫る中、今月初めから自衛隊機派遣を含めた退避支援を政府に進言していたが、初動が遅れた」と語っていた。

しかも、日本は当初、移送はあくまで空港から国外に脱出する自衛隊の手配だけで、それ以外のケアはしていなかった。ようするに「空港までは自力で来い」という姿勢だった。

〈カブールに到着した自衛隊員や外務省職員は空港外に出られず、輸送機に搭乗したい人は自力で空港に入る必要がある。〉(読売新聞 8月27日)

〈退避を希望するスタッフらは自力で空港まで移動する必要があり、実際に空港までたどりつけるかが課題となっている。〉(朝日新聞 8月27日)

最終的には、韓国と同様、バスを出すことになったようだが、JAICAのアフガニスタン人スタッフらが政府のバスに乗り込んだのは、26日。出発直前に空港の爆破テロがわかり、結局、引き返さざるをえなくなった。

●アフガン人スタッフ退避支援を放棄して逃げた日本人の大使館員

こうした無責任な対応を見ていると、結局、日本政府は現地人のスタッフや日本の民間人なんて、どうなってもいいと考えているとしか思えない。

実際、オペレーションのお粗末さ以前に、日本の方針は人道や人権の観点から見てもありえないものだった。というのも共同通信によると、日本政府は民間NPOの現地スタッフも移送対象としたが、本人だけで家族の帯同を認めなかったというのだ。家族を置いていかなければならないとなったら、退避したくても退避できないだろう。

しかも、こうしたアフガニスタン人や民間の日本人置き去りの一方で、日本人の大使館員は17日の時点で、一足先に退避してしまっていた。カブールが陥落した15日、岡田隆アフガニスタン大使はすでにアフガニスタン国内にはおらず、日本人の駐アフガニスタン大使館員12人も17日に全員、英軍機で出国した。

これも、韓国との大きな違いだ。韓国の場合も、韓国人の駐アフガニスタン大使館員らは17日に一旦国外に退避している。しかし、このとき、韓国人の民間人全員をまず退避させており、自分たちは最後に退避。しかも、キム・イルウン参事官ら4人の韓国人外交官は22日に、アフガン人の脱出を支援するため、再びカブールに戻っている。

「Wow Korea」によると、 キム参事官は「アフガン人たちを韓国に移送しようとすれば、カブールに戻るしかなかった」と語ったというが、現地職員との連絡やバスの早期手配、タリバンとの交渉などは、彼らが現地に戻ったからこそ、できたのである。

一方、日本はどうか。日本の大使や外交官らはアフガン人スタッフや日本の民間人の退避支援を早々と放り出して、自分たちだけが逃げてしまったのである。これでは、いくら自衛隊機を投入したところで、スムーズな退避なんてできるはずがない。

●日本政府の姿勢を批判しないマスコミ、「憲法9条」「自衛隊法」のせいにするネトウヨ

いずれにしても、日本政府によるアフガニスタン退避作戦がたった一人だけという大失敗に終わった原因が、日本政府の「大事なのは自分たち日本人の高級官僚の安全だけ、民間人やアフガン人なんてどうでもいい」という棄民姿勢にあることは明らかだ。

これはまさに、主権国家としての義務の放棄であり、厳しく糾弾されるべきだが、驚いたのは、マスコミがこれをほとんど批判していないことだ。

それどころか、「アフガンから日本人退避 空自輸送機でパキスタンへ」(共同通信)「“日本人がアフガン退避した”政府発表 残る日本人のため自衛隊待機」(FNN)などと、まるで自衛隊の努力で、日本の民間人が大勢退避したかのような見出しを打っていた。

また、退避が一人だったこと報じたメディアでも、NHKのように「日本人1人が自衛隊機でアフガニスタンからパキスタンに退避」と淡々と事実を伝えるだけで、批判的なニュアンスはゼロ。

結局、日本人一人しか助けられず、アフガン人スタッフを置き去りにしてきたことを批判しているのは、朝日、毎日などのリベラルメディアだけだった。

さらにひどいのが、ネットの反応だ。

8月27日、立憲民主党の福山哲郎幹事長がTwitterで、〈派遣された自衛隊員のご尽力に敬意を表します。しかし、なぜわずか1人なのですか。退避を希望する日本人やアフガン人のスタッフなど500人程度の想定だったのではないですか。ロシアも韓国もEUも数百人規模で退避しています。〉と、政府の姿勢を批判すると、政権応援団やネトウヨたちがこんな話のすり替えで、福山攻撃と政府擁護を展開したのだ。

〈そこまで言うなら福山センセが現地に行って500人助けて来いや〉

〈立憲民主党は自衛隊が現地で邦人救出できる法案を作ってくれるってことですね。

当然、武器使用も可で、捜索も出来るようにしますよね?よろしくお願いします。〉

〈よく言うなあ…自衛隊が活発に動くのを妨害してる勢力が、この言い草 自衛隊を国防軍と正式に認め、軍隊として動けるように、国会で採決決定して下さいよ!〉

〈法改正を邪魔しておいて、安全な場所からマウントを取らないで頂きたい。〉

〈福山先生のおっしゃる通り 邦人救出でも明らかなように国家公務員の自衛隊では限界がありすぎですね。憲法改正して自衛隊も軍隊になってもらわないといけませんね。〉

〈ぜひ、このような事態の際に、退避を希望する多くの方を救うことのできる能力を自衛隊に備えていただかなくてはいけませんよね!〉

ようするに、憲法9条や自衛隊法の限界で、邦人退避ができなかったというのだが、冒頭でも指摘したように、退避失敗と憲法は関係がない。韓国がそうしたように、外務省や大使館員が責任感をもって早くから動いていれば、とっくに全員を退避させることができたのではないか。にもかかわらず、そのことを批判せずに、改憲に結びつけるとは……。

いずれにしても、今回のアフガン退避をめぐる失態は、ふだん「国のために命を捧げろ」だの「国家と国民を守ルために改憲を!」とわめきたてている連中が、国民を守る気などひとつもないことを、証明したと言える。いや、それはこの間のコロナ対策でとっくに証明されていたことではあるが……。

(編集部)